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東京地方裁判所 平成4年(ワ)6627号 判決 1996年1月31日

東京都中央区日本橋茅場町一丁目三番六号

原告

日本プスネス株式会社

右代表者代表取締役

一郡新

右訴訟代理人弁護士

土屋東一

味岡良行

岩崎淳司

東京都練馬区貫井三-二九-四-一一六

被告

一郡正司

東京都日野市西平山五-四五-一六

被告

門倉光夫

埼玉県狭山市鵜ノ木二五-九

被告

渡部三郎

右三名訴訟代理人弁護士

渡邉彰悟

主文

一  被告一郡正司は、原告に対し、金五九三九万〇六八四円及びこれに対する平成四年五月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告一郡正司との間では、原告に生じた費用及び被告一郡正司に生じた費用の各四分の一を被告一郡正司の負担とし、その余は原告の負担とし、原告とその余の被告との間では、全部原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  被告一郡正司(以下「被告正司」という。)、被告門倉光夫(以下「被告門倉」という。)及び被告渡部三郎(以下「被告渡部」という。)は、原告に対し、連帯して金一億五八四〇万円及びこれに対する被告正司については平成四年五月一一日から、被告門倉については同月八日から、被告渡部については同月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  主文一項と同旨

第二  事案の概要

原告は、第一に、被告らに対し、被告らが共謀のうえ原告の保有する営業秘密が記載された別紙目録記載の図面(以下「本件製作図」という。)を窃取し、これを第三者に開示したことによって、右営業秘密に関連して原告が支出したライセンス料二九〇〇万円、研究開発費一億一〇〇〇万円、試験費用三〇〇万円、日本海事協会規格受験費用五〇〇万円及び消防法審査費用五〇〇万円並びに弁護士費用六四〇万円の合計一億五八四〇万円の損害を被ったとして、不正競争防止法二条一項四号、四条又は民法七〇九、七一九条に基づく損害賠償、及び、これに対する不法行為より後の日から民法所定の遅延損害金を請求し(以下「被告らに対する請求」という。)、第二に、被告正司に対し、原告が取引先に対して有していた請負代金等の債権について、被告正司が取引先の担当者を欺岡して代金を受領する権限のない第三者である斉成工業有限会社(以下「斉成工業」という。)に弁済させたことが、表見代理又は債権の準占有者に対する弁済として有効になって、原告が代金の支払を受けられなくなり、取引先から斉成工業に弁済された金額五六二九万〇六八四円及び弁護士費用三一〇万円の合計五九三九万〇六八四円の損害を被ったとして、民法七〇九条に基づく損害賠償、及び、これに対する不法行為より後の日から民法所定の遅延損害金を請求している(以下「被告正司に対する請求」という。)。

一  前提事実

1  当事者(争いがない。)

(一) 原告は、船舶用甲板機器及び海洋構造物用各種機器の製造、販売、並びに、「九〇度フレアー鋼管接続工法」と称する溶接不要の配管接続法による配管工事請負等を業とする株式会社である。

(二) 被告正司は、原告の代表取締役一郡新(以下「原告代表者」という。)の長男であり、原告の営業課長であったが、平成三年一月一七日、原告を退職した。

(三) 被告門倉は、昭和五三年五月一日から原告に勤務し、平成三年二月二〇日に原告を退職したが、退職当時は原告の取締役開発部長であった。

(四) 被告渡部は、原告の営業社員であったが、平成三年二月五日に原告を退職した。

(五) 被告らは、平成三年三月二二日、工作機械の設計・製作・販売・リースを営業目的の一つとする株式会社エスメック(以下「エスメック」という。)を設立した。

2  被告らに対する請求について

原告は、昭和六一年一〇月一六日、フィンランド国法人GS-HYDRO-OY(以下「ゲーエス社」という。)との間で、ライセンス協定(以下「ライセンス協定」という。)を締結し、ゲーエス社が原告に対し、パイプ鍔部成形機の標準コンポーネント図面、材料仕様書、計算書その他のパイプ鍔部成形機の製造に必要なすべての図書類一式を原告に支給すること、原告は、ゲーエス社が支給する図面、材料仕様書、計算書その他の図書類をすべて機密(社外秘)として扱い、ライセンス協定を履行する以外の目的でゲーエス社が支給する図書類を自社の雇用人にも他の第三者にも開示したり使用を許可したりしないこと等を合意した。(甲八ないし一〇の各1・2、三五)

ゲーエス社の右パイプ鍔部成形機は、「九〇度フレアー鋼管接続工法」を実施するための機械(以下「フレアマシン」という。)であり、配管用金属製パイプ(以下単に「パイプ」という。)の端部の鍔部を成形する拡開用円錐体(以下「コーン」という。)を装着して、これを回転させながら軸方向に移動させることによって、金属製パイプ端部の鍔部を同パイプ軸線に垂直に成形する機械であり、これによりボルトだけによるパイプの接続が可能となり、接続のための溶接作業を不要とするものである。(甲三五)

3  被告正司に対する請求について

(一) 斉成工業は、原告が受注した全信連ビルの工事代金に関して、東阪通商株式会社(以下「東阪通商」という。)から、平成三年一月一一日、工事代金残額七七万円の支払を受けた。(争いがない。)

(二) 斉成工業は、原告が受注した全信連ビルの追加工事及びホテルニューオータニの工事の材料代、施工費に関して、東阪通商から、平成二年一二月一七日、みづほ商事株式会社振出の約束手形数通の交付を受け、右各約束手形はいずれも満期に決済され、また、同月二一日、残額の支払を受けた。(争いがない。)

斉成工業は、右により、東阪通商から合計四三六六万一一四八円の支払を受けた。(甲一八、一九の各1・2、二〇ないし二三)

(三) 斉成工業は、原告が受注した新高輪プリンスホテルの空調配管工事の追加工事代金等に関して、日鐡商事株式会社(以下「日鐡商事」という。)から、平成三年一月三一日、一二一五万四〇〇〇円の支払を受けた。(争いがない。)

二  争点

1  被告らに対する請求について

(一) 原告が本件製作図を営業秘密として管理していたか。

(二) 本件製作図に示された技術情報の有用性、非公知性の有無。

(三) 被告らが本件製作図を原告から窃取し、これを第三者に開示したか。

2  被告正司に対する請求について

被告正司が、原告の取引先の担当者を欺岡して、本来原告が受領すべき工事請負代金を、これを受領する権限のない斉成工業に支払わせたか。

三  争点についての当事者の主張

1  争点1(一)(原告が本件製作図を営業秘密として管理していたか)について

(一) 原告の主張

(1) 原告は、ゲーエス社とのライセンス協定に基づき、同社に対して、本件製作図に関し守秘義務を負っている。被告門倉は、原告の取締役開発部長であった当時、本件製作図の原図を原告本社の自席の机の引出しに入れて施錠し、その鍵を保管してこれを厳重に管理しており、被告門倉の承諾なしに他の者がこれを閲覧することはできなかった。

被告門倉は、取締役開発部長として、ゲーエス社とのライセンス協定締結前から、ゲーエス社との折衝及びフレアマシンの性能調査等技術提携に関する一切の事務を取り仕切り、日本のJIS規格に合致するようフレアマシンの製作図を作り直す作業を行うなど、技術提携の実現に向けて職務を行ってきたのであって、本件製作図に示された技術情報の技術上の意義及び原告における経営上の意義を知っており、原告がゲーエス社に対して本件製作図に示された技術情報について信義則上及びライセンス協定上守秘義務を負っていること並びに本件製作図に示された技術情報が原告の機密事項であることを認識して、部外秘である旨の英文のコメントが入っている本件製作図を自分の机の近くに置いていたのである。したがって、被告門倉は、フレアマシンを含めた技術部門の最高責任者の地位にあり、職務上本件製作図を機密情報として管理、保管すべき義務があった。

なお、原告技術部の破魔知孝(以下「破魔」という。)は、フレアマシンの修理等の際に必要な本件製作図の青図を一括ファイルしたものを原告本社の技術部室内のロッカーに入れて施錠し、その鍵を保管してこれを管理していたものである。

(2) 本件製作図は、右のとおり原告本社技術設計部に保管されていたが、技術設計部の区画内に入るには、同じフロアーにある受付で訪問先のチェックを受け、営業部門、総務経理部門を通過する必要があるから、社外の者が侵入して勝手に図面を持ち出すことはできない。そして、技術設計部の区画に立ち入る者は、図面を作成する下請業者と原告の営業担当者であるが、営業担当者でも製品に関する技術的な質問をするためや、図面の製作の遅れによって製作工程が遅延している場合などに作業の進捗を促すために立ち入るだけであり、無用の者が立ち入ることはない。

(3) 原告は、約四三坪のフロアーに営業、総務、技術の各部門が同居する小規模の会社であり、特異な製造技術をもって甲板機器等の船舶関連機材を製造販売して、長年にわたり造船業界で圧倒的なシェアを独占してきた会社であるから、技術開発の成否が原告の死命を制し、本件製作図に限らず原告が保管する図面一般が秘密性の高いものであることは約四〇名の社員全員が認識していた。

(二) 被告らの主張

被告門倉は、本件製作図の原図を筒に入れて自席の机の側に置いていただけであり、自席の机の引出しに入れて施錠し、その鍵を管理していたことはなく、右原図は、関係者が誰でも閲覧できる状態にあった。そして、本件製作図の原図及び青図については、特定の管理責任者はおらず、被告門倉や破魔の周囲に置かれていたというだけであり、閲覧に際して誰かの許可が必要ということもなかったのであるから、営業秘密の管理という実体は存在していなかった。

2  争点1(二)(本件製作図の技術情報の有用性、非公知性)について

(一) 原告の主張

本件製作図に示された技術情報は、パイプの端部をパイプの軸線に垂直に形成して鍔状にし、二本のパイプ相互をボルトで接合するフレアマシンに関するものである。このフレアマシンによれば、従来必要だったパイプの溶接作業が不要になり、溶接工がいなくても継手作業ができ、その確保が必要なく、人件費を節約できる。また、このフレアマシンは、火気を使用しないので、工事現場での作業の安全性が格段に高まり、内容物が漏れた場合でも簡単に修理できる。さらに、従来は、建物の施工現場で溶接作業をしなければならなかったが、このフレアマシンを使用して工場で加工したフレアパイプを現場に搬送すれば、ボルトを締めるだけでパイプの接合が完了するので、作業能率が格段に上昇し、工期が短縮できる。

このようなパイプ端部を鍔状に加工してボルトで締めつける方法は、過去にも何種類か考案されていたが、その多くがパイプを高温に熱して加工を容易にした上で鍔を成形する方法であり、常温で鍔を成形する方法もあったが、耐久性及び形成された鍔の形状において実用に耐え得るものではなかった。

常温での鍔部成形方法として実用化に至ったのは、ゲーエス社の本件製作図に示された技術情報を用いたフレアマシンを使用する方法が世界最初であった。右鍔部成形方法に関するゲーエス社の保有する特許権(発明の名称「パイプ鍔部成形方法及びその装置」・特許番号第一六二九四〇三号。以下「本件特許権」といい、その発明を「本件特許発明」という。)には、フレアマシンの製造方法、並びに、フレアマシンに装着されたコーンの進行速度、回転数、パイプ端部に加える油圧の圧力及びパイプに加える圧力の角度等のノウハウについては、記載されておらず、これらの数値が適正な値であることが鍔部を形成するための必須条件である。従来考案された常温での成形方法が実用化されなかった理由は、右進行速度等の適正な値が究明されていなかったためであるところ、本件製作図は、実用化にこぎつけた唯一のパイプ加工設備の設計図面であり、本件製作図には、実験工学的に導き出された適正値を機械的に実現するために必要な情報が記載されている。

原告の技術導入後数年を経ても、我が国で常温での鍔部成形方法を実施している業者が原告と被告らの経営するエスメックの二社のみであることからも、本件製作図に示された情報の価値を伺うことができる。

(二) 被告らの主張

原告の主張する溶接作業が不要となり、作業の安全性が高まる等の有用性は、既に開発されていた技術によっても得られていたものである。すなわち、ボルトだけによる接続が可能となるという点については、そのようなものは古くから存在していたし、昭和四四年には、実用新案公報(実公昭四四-二九〇八八)で、円錐ローラーと平行ローラーを使用して筒管の鍔部を成形する装置が明らかにされている。また、昭和五〇年には、公開特許公報(特開昭五〇-五七九四五)において、常温で下型内に支持し上部を所定突出させた管状素材内に、弾搬的上昇習性を与えられた中子を嵌挿しておき、下型上に突出した部分を凸円錐面とした上型(原告の主張するコーンに準ずるもの)を二重偏心螺旋回転させつつ圧接することによって側方に拡開して鍔部を成形する方法が公開されている。さらに、昭和五四年には、公開特許公報(特開昭五四-九一五一)で、パイプ形状の素材内端面に面取り加工を施し、フランジ幅を規制するための治具を用い、素材軸線より傾けて取付けられ素材端面と線接触をするように取付けられた工具(原告の主張するコーンに準ずるもの)を用いて、パイプの一端面に小フランジ部を形成する方法が公開されている。したがって、原告の主張する営業秘密は、ゲーエス社の特許出願前にその発明の属する分野における通常の知識を有する者が、容易に発明することができたものであり、営業秘密というに値しない。

また、原告は、本件製作図の中に機械の回転数や油圧のスピードなどの情報が含まれていたかのような主張をするが、このような情報は製作図面に記載されているものではなく、計算書として別個に管理されているものである。

さらに、我が国で常温での鍔部成形方法を実施している業者は、原告とエスメックのみではない。

3  争点1(三)(被告らが本件製作図を原告から窃取し、これを第三者に開示したか)について

(一) 原告の主張

(1) 被告らは、共謀のうえ、平成二年一二月ころから同三年一月ころにかけて、原告が保管する本件製作図及びフレアマシンを使って加工したパイプの見本を窃取した。

(2) 被告らは、平成三年一〇月一九日に本件製作図等の窃取の容疑で逮捕、勾留され、同年一一月七日に釈放された後に、同四年二月二八日に不起訴となったが、その理由は、嫌疑不十分ではなく、起訴猶予であり、検察官は告訴にかかる犯罪事実を認定していたのである。また、被告らは、釈放された後不起訴となるまでの間に、その代理人弁護士を通じて、同三年一一月二六日には本件製作図を原告に返却し、同年一二月二九日ころ被告らが株式会社日設管興(以下「日設管興」という。)に売却したパイプ鍔部成形機及びコーンの一部を返却し、同四年二月一八日には被告らが行ったパイプ鍔部成形機に関する特許出願を取り下げた(特願平三-二三九八三三号。以下「被告特許出願」という。)。仮に、被告らが本件製作図を窃取したとの事実がないのであれば、釈放後三か月も処分を留保されるはずがなく、被告らが右のように本件製作図等を返却するはずもない。

(3) 被告らは、平成三年三月二二日にエスメックを設立し、同年四月ころ共謀のうえ、被告らが窃取した本件製作図を高田機械設計株式会社(以下「高田機械設計」という。)及び有限会社五月女精機(以下「五月女精機」という。)に開示して、パイプ鍔部成形機の試作機の設計、製作をエスメックをして依頼させ、五月女精機が同年六ないし七月ころこれを製作し、エスメックがこれを日設管興に売却した。

被告門倉は、平成三年二月二〇日に原告を退職した後、同年四月ころにはエスメックが高田機械設計にパイプ鍔部成形機の試作機の設計、製作を依頼しているのであり、被告門倉は、わずか二か月で右試作機の設計にこぎつけたことになるが、過去多くの技術者が実用化に取り組んで失敗した機械を、原告のフレアマシンに関する知識や本件製作図なしにこのようなわずかな期間で試作することは不可能である。仮に、被告門倉がこのような能力を持っていたならば、原告は、高額の実施料を支払って外国から技術導入をする必要はない。

(4) 被告らは、共謀のうえ、平成三年一一月七日の釈放と相前後して、本件製作図の現物又はコピーを東京機器株式会社(以下「東京機器」という。)、株式会社長谷川鉄工所(以下「長谷川鉄工所」という。)に開示して、パイプ鍔部成形機の製作を依頼し、完成したパイプ鍔部成形機を、同四年二ないし三月に日設管興に二台、同年二月に株式会社ジャパンエンジニアリング(以下「ジャパンエンジニアリング」という。)に二台、それぞれ販売した。

(5) 被告らは、エスメック設立後は、エスメックにおいて営業活動を行っており、被告らが個人的に何らの営業活動も行っていないのであるから、被告らが不正開示行為の主体となることはない旨主張する。しかし、エスメックは、代表取締役が被告正司であり、取締役が被告門倉及び被告渡部であって、株式会社組織であっても実態は被告らの個人的企業であり、不正取得行為を行ったのは被告らであり、開示行為を行って不法な利益を獲得したのも被告らであって、常に被告らの行為が介在しているのであり、会社としての営業活動があるか否かとは関係なく、被告ら個人の行為が厳然と存在するのであるから、被告らの責任を否定することはできない。

(二) 被告らの主張

(1) 被告らは、本件製作図を窃取したことはない。

(2) 原告は、被告らを告訴する際に何らの具体的事実も把握していなかったのであり、原告の告訴は、被告らが設立したエスメックに営業活動をさせないためだけに行われた営業妨害行為である。すなわち、原告代表者は、被告らに窃取されたものとして本件製作図を特定したのは、破魔の持っているリストによってチェックしたものであると供述するが、破魔の陳述書(甲四三)によれば、実際に被告門倉がJIS規格に適合するように作成した図面が何枚あったのか、被告門倉以外に知る者はおらず、被告門倉が実際にどのくらいの図面、技術資料を持ち出したのか全く調査できなかったというのであり、矛盾しているし、また、ゲーエス社からは書面には原図として記載されていても、実際には支給されていない原図もあり、青図については、誰がどの図面を青図として残しているか全く分からない状態であり、本件製作図がどのようにして特定されたのか不明である。

また、被告正司及び被告渡部は、逮捕されてから起訴猶予となるまで一貫して容疑事実を否認しており、被告門倉も、本件製作図の窃取という点については否認していたのであり、自宅に本件製作図の一部の図面を持ち帰って仕事をしたことがあることを認めていたにすぎない。

そして、被告らが逮捕した際に警察が押収した図面は、五月女精機にあったもので、原告のフレアマシンの設計図ではなく、被告門倉がエスメックで設計した後記(4)の構造のパイプ鍔部成形機(以下「フラップジョイント」という。)の試作機の図面であり、本件製作図とは全く別物であり、平成四年五月一一日までに検察庁からエスメックに返還されている。

また、エスメックは、フレアマシンを日設管興から原告に返却したこともなく、日設管興に担保として差し入れてあった試作機を、被告らの刑事処分について迅速に不起訴処分を獲得する目的で、原告との話合いの中で譲渡したのである。エスメックの被告特許出願の取下げについても、同様の目的で行ったものである。

なお、高田機械設計から、被告らの逮捕後に原告に七三葉の図面が交付されたが、これは、原告から高田機械設計に預けられていた図面であり、本件製作図は含まれていない。

起訴猶予は、建前上は嫌疑はあるけれども起訴はしないとの検察官の処分であるが、実際の運用においては、嫌疑なしも含めて起訴猶予の処分とされている例も多く、被告らの不起訴処分の実質は、実務の運用で行われている嫌疑なしあるいは事実が食い違っているという類いのものであり、原告がそれを民事裁判手続で蒸し返そうとするのは不当である。特に、被告らへの告訴は、何らかの特別なコネクションによって受理されたものであり、このような経緯から、嫌疑なしで終結させることはできなかったものと考えられる。また、被告正司が起訴猶予の条件として提案を受けた被告特許出願の取下等は、原告代表者からの申し入れによるものであり、原告会社の行動は、刑事、民事一体で、エスメックの営業活動を徹底的に壊滅する意図でなされたものである。

(3) エスメックが、高田機械設計及び五月女精機に示したのは、フラップジョイント製作のための試作機の設計図であり、本件製作図ではない。すなわち、フラップジョイントは、後記(4)のとおり、フレアマシンとは異なる装置であるが、その試作機の段階でも、機械の回転数、油圧のスピード等の容量を上げて精度を高めるねらいで取り組んでいたのであり、試作機の図面の製作にも本件製作図が生かされる余地はない。

(4) エスメックが長谷川鉄工所に示した図面は、フラップジョイントの図面であり、本件製作図ではなく、また、東京機器には、機械製作をしてくれる長谷川鉄工所を紹介してもらっただけであり、図面は一切見せていない。

フラップジョイントは、パイプの端部をパイプ軸線に垂直に形成するものであるが、ゲーエス社の特許に拘束されないものであり、フレアマシンとは全く別の機械であるから、その製作のために、本件製作図を必要としない。すなわち、ゲーエス社のフレアマシンは、元々欧州向けに開発されたもので、欧州よりもパイプの厚さが厚いJIS規格のパイプを加工するためには加工能力が小さく製品精度が悪くなり、また、他社による模倣を防ぐために主要部品に非汎用性の部品が使用してあり、ユーザーメインテナンスが困難で原価コストも高く、さらに、第一工程から第二工程に移行するにあたりコーンの交換又は載置が必要で、取替工程に危険を伴い自動化が困難であるという問題があった。これに対し、エスメックが開発したフラップジョイントは、厚みのあるパイプを高い精度で加工し、平面部を広くし平らにするなど、これらの問題をすべてクリアするために発明したもので、フレアマシンとは構造も異なるし、構成部品も共通性がなく、部品の強度や材料力学上の設計計算の方式、機械の回転数、油圧のスピード等が異なり、独自の設計、計算が必要なのであり、フラップジョイントの設計にあたり本件製作図が生かされる余地はない。特に、フラップジョイントは、第一工程と第二工程のコーンを初めから対称の位置において、反転装置によって反転してコーンの位置を同一のものとするもので、最終段階まで人力を使用せずに加工が可能になり危険性がなくなったものである。なお、フラップジョイントがゲーエス社の本件特許権を侵害していないという裁判所の判断も出されている。

なお、被告らは、エスメックを平成三年三月二二日設立した後は、このエスメックにおいて営業活動を行い、個人的に何らの営業活動も行っていないから、被告らが不正開示行為の主体となることはない。

4  争点2(被告正司が、原告の取引先の担当者を欺罔して、本来原告が受領すべき工事請負代金を、これを受領する権限のない斉成工業に支払わせたか)について

(一) 原告の主張

(1) 被告正司は、平成二年一一月ころ、原告の営業課長でかつ原告代表者の長男として、取引先からの工事の受注及び工事代金の受領に関して事実上広範な権限を行使していた。

(2) 被告正司は、原告が受注した工事請負及び工事材料販売の代金を発注者である東阪通商及び日鐡商事から実体のない会社である斉成工業に支払わせて右代金を騙取しようと考え、斉成工業が原告から右代金を受領する権限を与えられていないにもかかわらず、この権限を与えられたかのように装って、以下のとおり欺罔行為を行い、合計五六二九万〇六八四円を騙取した。

ア 被告正司は、原告が東阪通商から受注した全信連ビルの工事代金支払に関し、平成二年一一月一三日、東阪通商専務取締役柏谷宏司(以下「柏谷」という。)に対し、「東阪から原告に支払うべき分割弁済金のうち、最終回の支払額四二七万円の一部の三五〇万円を原告へ手形で支払い、残りの七七万円を斉成工業に現金で支払ってほしい」「原告の一郡新社長にも報告済み」などと言って、同人を欺罔してその旨誤信させ、よって、同三年一月一一日、東阪通商から斉成工業に七七万円を振り込ませた。

なお、東阪通商は、斉成工業に対し注文書(乙九のもの)を出しているが、この注文書は、被告正司の依頼を受けた柏谷が、斉成工業への支払を起こすために東阪通商の経理処理上東阪通商から斉成工業宛の注文書が必要になることから、実態に合わない注文書を作成して被告正司に交付したものであって、被告正司の前記欺罔行為によって柏谷が錯誤に陥った結果作成されたものである。

イ 被告正司は、平成二年一二月六日、原告が受注した全信連ビルの追加工事及びホテルニューオータニ工事の材料代、施工費の支払いに関し、東阪通商→原告→斉成工業という支払ルートを変更するために、柏谷に対し、「従来は原告より斉成工業に支払われていた施工費の支払について、今回は追加工事分の代金であり手直しも多いので、日鐡商事から東阪通商に代金が支払われたら、東阪通商は斉成工業に直接支払って欲しい。」「高輪プリンスホテル、全信連(追加工事を含む)及びホテルニューオータニの工事はいずれも赤字なので、原告が材料のフレアパイプを斉成工業に販売し、斉成工業が東阪通商に販売した形をとるので、東阪通商は代金を斉成工業に支払ってもらいたい。原告へは斉成工業から支払う。」「東阪通商が了承してくれれば、原告の一郡新社長に報告して承認を得るから、東阪通商でこの話を受けて欲しい。」「一郡新社長には私より報告するので、日鐡商事→東阪通商→斉成工業というように代金の流れが変わったことについては、東阪通商より連絡する必要はない。」などと言って、同人を欺罔してその旨誤信させ、よって、同二年一二月一七日、東阪通商からみづほ商事株式会社振出の約束手形四通(額面金額合計三三五五万一二三〇円)の交付を被告正司が受け、右手形はいずれも満期に決済され、また、同月二一日、東阪通商から斉成工業に残代金九八一万五四五四円を振り込ませ、合計四三三六万六六八四円を騙取した。

なお、東阪通商は、斉成工業に注文書(乙一〇の1・2のもの)を出しているが、この注文書も、斉成工業への支払を起こすために経理処理上東阪通商から斉成工業宛の注文書が必要になるので、柏谷が実態に合わない注文書を作成して被告正司に交付したものであって、被告正司の前記欺罔行為によって柏谷が錯誤に陥った結果作成されたものである。

ウ 被告正司は、原告が日鐡商事から受注した新高輪プリンスホテルの空調配管工事の追加工事代金などの支払に関し、日鐡商事からの支払先をいったん原告から東阪通商に変更してあったところ、日鐡商事の機材・プラント第二部課長大橋貢(以下「大橋」という。)に対して、平成二年一二月二七日、「今回の高砂熱学から支払があった分については東阪通商への支払を予定してもらっていたが、斉成工業の腕が良かったので、斉成工業を強化・育成したいから、原告の専属の下請として使っていきたい。斉成工業が日鐡商事と取引すれば対外的な信用もつくので、支払先を東阪通商から斉成工業に変更してもらいたい。」「口銭については、高砂熱学から日鐡商事に支払われる六〇〇万円のうち七〇万円が日鐡商事。斉成工業への支払は五三〇万円にする。」などと言って、斉成工業が代金の受領権限があるかのように装い、また、平成三年一月二二日又は二三日、大橋に対し、右追加工事の追加仕入れ金額七〇〇万円について、日鐡商事の仕入先名、仕入金額及び支払時期に関し「仕入金額は六五〇万円、支払先は斉成工業、支払時期は一月三一日でお願いします。」などと被告渡部に言わせて斉成工業が代金の受領権限があるかのように装い、大橋をその旨誤信させ、よって、平成三年一月三一日、日鐡商事から、右合計一一八〇万円に消費税を加えた金額一二一五万四〇〇〇円を騙取した。

(3) 原告は、斉成工業と、同社を下請とする取引をしていたが、この取引を開始したのは、以下の事情からである。

原告は、原告の新製品の下請工事業者が不足していたので、日立冷熱株式会社(以下「日立冷熱」という。)の下請業者であった有限会社大谷工業(以下「大谷工業」という。)を原告の下請にすることにしたが、原告も日立冷熱と取引があり、原告が大谷工業に直接仕事を発注するわけにはいかなかったため、原告と大谷工業との間に別会社を入れることになった。原告がこの間に入る会社を探していたところ、被告正司が原告代表者に、「浜松の有力な配管業者であり常時三〇数名の作業員を配下に置いている斉成工業という会社がある。もしも大谷工業が人手を集められないような場合には、浜松から作業員を連れてくることができる。大谷工業を使うならば作業員が足りない場合に援助できる能力がある会社が入らないと困る。」と言って、斉成工業を強く推薦したため、原告代表者は工事がスムースに進むのならばと考え、被告正司の言葉を信用して斉成工業を下請として使うことを了承した。

(4) 斉成工業は、以下のとおり、被告正司が運営していたもので、実体も実績もないダミー会社であったが、当時、原告代表者はこのような会社であるとは想像もしていなかった。

斉成工業の代表取締役と称する濱田泰次の名刺に記載されている所在地(東京都新宿区西新宿七-一〇-一八-五〇一)に基づいて商業登記簿謄本の閲覧申請をしたが該当会社は存在していない。また、斉成工業は、その商業登記簿謄本によれば、管工事の設計・施工・管理、配管工事資材の販売が目的であるにもかかわらず、その役員及び元役員は右業務には従事しておらず、しかも従業員が一名もいない。以上のとおり、斉成工業は、被告正司が東阪通商等から代金を騙取することを目的として設立したペーパーカンパニーであることが明らかである。そして、斉成工業が東阪通商等から受領した前記代金は、被告正司が管理しているものである。

(5) 被告正司は、斉成工業が東阪通商及び日鐡商事と原告との間に原告への発注者として入ることとなった旨主張するが、他方で、斉成工業が原告と大谷工業との間に原告の下請として入ることになったとも主張しているのであり、右主張は、矛盾している。

(6) 乙五の1の斉成工業と原告との取引基本契約書は、斉成工業が注文者で、原告が請負人となって、本来の関係と逆になっており、また、原告代表者が日付も入れずに契約書に押印することはあり得ず、真正な書類ではない。

また、乙五の2の原告の作成書類に関する手控えも、本来、申請者欄に申請者の印が押され、代表者の承認印として原告代表者の個人印が押されていなければならないのに、申請者の印もなく、代表者の承認印も原告代表者の個人印ではなく代表者印であるから、真正な書類ではない。

さらに、乙五の2には、斉成工業注文請書及び誓約書という書類が記載され、被告正司は、これらの作成につき原告代表者の承認があり、自宅に保管している旨供述しているが、被告正司からこれらの書類は書証として提出されていない。また、乙五の2は、原告の内部文書であるにもかかわらず、被告正司が退職前にコピーを取って今日まで所持していたのであり、本件紛争を予想し、これに備えてコピーを取ったものと解される。

(二) 被告正司の主張

(1) 斉成工業が原告主張の代金を受領する権限は、すべて原告から認められていた。

(2) 斉成工業の設立経緯等は、以下のとおりである。

ア 原告は、昭和六三年四月ころからフレアパイプの加工、販売をしてきたが、売上を伸ばすため、平成元年末ころから工事を含めた受注をするようになった。しかし、その当時は建築ラッシュであったため、適切な工事業者が見当たらず、工事を含めた受注には現場を担当する力量のある工事業者を確保する必要があったため、原告代表者は、被告正司の説明を受け、<1>社内での工事部の設立又は工事担当の子会社の設立、<2>工事専門の人材の確保、<3>原告専従の工事業者の獲得と育成の方針を打ち出し、右<2><3>を被告正司に委ねた。

イ 被告正司は、受注した工事量を乗り切るため、下請業者を探し、原告が管材を納入していた日立冷熱の下請をしている大谷工業と交渉して、同社を原告の下請として採用することになったが、その際、大谷工業から日立冷熱に対して筋の通る形にしてほしいという要求があった。被告正司は、大谷工業の右要求を満たし、原告にコスト負担をかけずに済むという自らの判断の下に、斉成工業を運営した。全信連ビル工事、同追加工事、ホテルニューオータニ工事、新高輪プリンスホテル工事等は、いずれも右の経過の中で行われた工事であり、斉成工業が介在しているのはすべてこの理由に基づくものである。

(3) 右(2)のように、斉成工業の存在があったからこそ、原告が受注した工事が滞りなく完遂できたのであり、したがって、斉成工業には欺罔の意思はなく、また、斉成工業は、原告の請求があればこれに応じるべきであるが、原告からの請求はない。

(4) 被告正司は、原告の営業課長として、当時の原告における職責に則って権限を行使したのであり、単なる一個人として行動したのではない。原告代表者は、乙五の1・2の取引基本契約書等に押印する際、被告正司からその意義を説明され、それに納得した上で自ら押印しているのであり、東阪通商及び日鐡商事の担当者は、斉成工業の法的存在及びその地位を明確に認識したうえで注文書を作成したのである。

(5) 原告は、「被告正司は、斉成工業が東阪通商と原告との間に原告への発注者として入ることとなった旨主張するが、他方で、斉成工業が原告と大谷工業との間に原告の下請として入ることになったとも主張しているのであり、右主張は、矛盾している」と主張する。

しかし、当初大谷工業導入が焦点となっていた時期(平成二年前半)と、その後に受注態勢の充実を図ろうとしていた時期とで、原告の対応が異なるのは当然であり、平成二年一一月ころには、様々な形態で取引ルートを展開可能な状態にしておくことが機動性につながり、リスクを回避するということがあったのである。

そして、右のような点を考えていた被告正司にとって、自分に近しい人間を配した斉成工業は、工事を円滑に進めるためのものでしかなく、斉成工業の役割は、原告をいわば代行する形で業者の手配をするということであり、このことは乙五の1の取引基本契約書が交わされた後にも変わることはなかった。

第三  争点に対する判断

一  被告らに対する請求について

争点1(三)(被告らが本件製作図を原告から窃取し、これを第三者に開示したか)について判断する。

1  前記第二、一の前提事実、並びに、証拠(乙一四、二三、被告門倉)及び後記の括弧内の各証拠によれば、次の事実が認められる。

(一) 被告門倉は、昭和五三年五月一日、原告に入社し、船舶の甲板機械の設計に関する技術スタッフとして働き、その後原告の取締役開発部長として、昭和六一年一〇月のゲーエス社との「九〇度フレアー鋼管接続工法」実施のためのライセンス協定の締結、ゲーエス社から供給されたGSタイプのフレアマシンの国産化のための設計図の手直し等の業務を担当してきた。具体的には、JIS規格のパイプは、ドイツ規格のパイプに比べてパイプの厚さが厚いため、ゲーエス社のGSタイプのフレアマシンをそのまま使用したのでは、パイプ鍔部の加工精度が悪く、機械の寿命も短くなるとの欠陥があったため、コーンの回転容量を高める等の改良を加えたうえで、JIS規格のパイプに対応したNPF-400、NPF-250等の国産のフレアマシンを製造する必要があったが、被告門倉は、右NPF-400、NPF-250等の設計、改良等の業務に従事してきた。(甲三、原告代表者四三、四四項)

被告門倉は、初期の段階でNPF-250の設計業務を完了し、その後、NPF-400の設計業務に従事していたものである。右機械の設計図を作図する場合には、製作図面としての性質上、部品の寸法がほんのわずか違っても機械を製造できないとの大きな問題が生じるものであるため、被告門倉は、NPF-400やNPF-250の設計業務を遂行する際に、その設計図の一部のコピーを自宅に持ち帰り、細部にわたり設計図をチェックする作業を自宅でも行なったことがある。被告門倉は、NPF-250については、初期の段階の仕事であったため、自宅に持ち帰った設計図のコピーをすべて原告に返還しているが、NPF-400については、一〇枚前後の設計図のコピーを持ち帰っており、本来原告を退社したときにこれを返却すべきであったところ、単なるコピーであったことと、原告を退社した経緯上、特にこれを原告に返還することなく自宅において廃棄処分とした。

(二) 原告は、ゲーエス社とのライセンス協定に基づき、同社から供給された設計図、計算書等については、これを管理しその秘密を保持すべき義務を負っていたのであるが、被告門倉は、フレアマシンに関する図面の管理責任者の一人として同図面の管理をし、また、フレアマシンの保守担当の破魔は、国産化したフレアマシンや輸入したフレアマシンの保守修理のために、フレアマシンの青図一式を管理していた(原告代表者三七ないし四一項)。図面は、原告社内の技術設計部の区画内の図面棚、ロッカー等に保管されていたため、社外の者が自由にこれを持出すことができる状況にはなかった(甲三七)。ただし、原告は、社員による図面の持出し等の管理については、これを管理するための管理者を定め、図面の持出し、使用等を逐一図面管理簿に記載させる等の厳格な管理をしていたわけではなく、その都度、図面を必要とする社員が図面を持出して使用しこれを返却するという管理状況であった。なお、原告は、被告門倉が本件製作図の原図を原告本社の自席の机の引出しに入れて施錠し、その鍵を保管してこれを厳重に管理していた旨主張するが、被告門倉の供述に照らし、右原告主張事実を認めることはできない。

(三) 被告らは、原告退職後、平成三年三月二二日にエスメックを設立した。被告門倉は、平成三年二月二〇日に原告を退職した後、同年五月にはフラップジョイントの試作機の設計図を完成させ、エスメックは、そのころ高田機械設計の推薦で、五月女精機に右試作機の製造を依頼し、同年六、七月ころ右試作機を一台製造させている。

右試作機は、現在エスメックが製造しているフラップジョイントのコーンの回転数、回転速度、油圧ポンプの圧力、推進スピード等を決定し、その構造をチェックするためにエスメックが試作したパイプ鍔部成形機であるが、原告のフレアマシンと比較すれば、次のような構造上の差異を有し、両者は設計図上も種々の点で相違している。(甲五四の1ないし6、五五の1・2、検甲一)

(1) 右試作機とフレアマシンは、いずれもコーンを使用して常温でパイプの端部を同パイプの長手方向の軸線と垂直に拡開成形するパイプ鍔部成形機である点において同じものであるが、そのようなパイプ鍔部成形機に関する技術は、ゲーエス社が昭和六三年二月二四日に本件発明について特許出願した以前から種々のものが知られており(乙三の1ないし3)、かつ、ゲーエス社の本件発明についての出願公開は昭和六三年一一月七日、出願公告は平成二年一一月一五日であるところ、ゲーエス社のパイプ端部の鍔部成形方法及びフレアマシンの内容は、同特許出願に係る明細書において開示されていたものである。すなわち、ゲーエス社のフレアマシンは、第一工程においてパイプの端部を三五ないし四〇度前後の角度に拡開し、第二工程において同パイプの端部を約九〇度に拡開するものであり、同社の技術思想は、簡易で軽量な装置で素速くパイプ鍔部を九〇度に形成することを目的としたものであり、右目的を達成するために、第二工程を実施する際に、第一工程に使用したコーンの頂部に補助ヘッドをかぶせるか、又は、右コーンを別の補助ヘッドと交換して、コーンの軸と同軸に補助ヘッドを取り付けた後、第二工程を実施するとの特徴を有するものであって、右特徴により、装置の構造を簡易かつ小型化できるとの利点を有するものである。(甲一一、乙一二)

(2) 原告のフレアマシン及びエスメックの試作機は、いずれも第一工程においてパイプの端部を三五ないし四〇度前後の角度に拡開し、第二工程においてパイプの端部を約九〇度に拡開するとの方法を採るとの基本的な作業工程は共通しているものである。しかし、原告のフレアマシンは、第一工程終了後、第二工程に移行する際に、第一工程に使用したコーンに補助ヘッドをかぶせて第二工程用のコーンとするか、あるいは、別の補助ヘッドと交換するとの構造を有するものであり、加工軸は一軸であって、前記のとおり、装置の簡易かつ小型化をねらったものであるのに対し、被告の試作機は、コーンの加工軸を二軸とするとの構造であり、第一工程用のコーンと第二工程用のコーンをそれぞれ別軸に形成するものである。また、原告のフレアマシンは、コーンを押していくための装置が一つであったのを、試作機では、これを二つに分け、そのバランスを取ったという特徴がある。さらに、原告のフレアマシンは、ゲーエス社のフレアマシンのコーンの回転容量をJIS規格のパイプに対応できるようにそのコーンの進行速度、回転数、パイプ端部に加える油圧の圧力等を増やしたものであるが(NPF-400、NPF-250等)、右試作機は、コーンの回転容量をNPF-400等に比べさらに一・三倍ないし一・五倍に増加させたものである。また、右試作機は、NPF-250と比べても、コーンの駆動モータの配置等、機械の設計図上種々の点で原告のフレアマシンとは異なっているものである。

(四) エスメックは、試作機を製作した後、フラップジョイントの設計、製造に取り掛かり、平成三年九月一九日には、その基本的な構造を決定したうえで、右フラップジョイントに関し、被告特許出願をしている。(乙二五)

(五) 原告は、被告らが退職後にフレアマシンに似た機械を製造しているとの情報を得て、初めてフレアマシンの図面について原告の社内の保管状況を調査し、平成三年八月一日、被告らを本件製作図及びパイプ見本を窃取したとして告訴した(甲一三)。被告ら三名は、同年一〇月一九日、本件製作図窃取の容疑によって、逮捕、勾留され、同年一一月七日に処分保留のまま釈放された(争いがない。)。

被告らが逮捕された際に押収された図面としては、フラップジョイントの試作機に関する設計図があったが、原告が本訴において被告らにより窃取されたと主張している本件製作図は押収された図面の中には全く存在していなかった(なお、原告代表者は、本件製作図が検察庁ないし警察で押収され、後に捜査機関から原告にこれを返却する旨連絡を受けたのに対し、廃却してよいと申し出て、原図も含め捜査機関で廃却した旨供述する(原告代表者一七四ないし一七八項、一九四ないし二〇一項)が、前記のとおり試作機に関する図面は、エスメックに返還されているのであるし、原告がライセンス協定に基づき守秘管理義務を負う本件製作図を原図及び青図ともに廃却してよいと捜査機関に対し述べることは通常考えられないことからすると、本件製作図が捜査機関に押収された旨の原告代表者の右供述は採用できない。)。また、試作機に関する図面は、エスメックが作図した図面であると判断されたため、平成四年四月二三日、東京地方検察庁からエスメックに返還する旨の通知がなされ(乙一五)、同年五月に返還されている。ただし、エスメックは、右試作機に関する図面を保存する必要もなかったため、現在は右図面は同社においても存在していない。

また、被告らが、本件製作図の窃取容疑で逮捕勾留された際に、右容疑事実を自白していたかどうかについては、直接これを確認できる証拠は本訴において提出されていないのであるが、従前から、フレアマシンやフラップジョイントの設計業務に直接関与してこなかった被告正司や被告渡部は、右事実を否認していたものと推認されるし(被告正司一六ないし一八項)、また、被告門倉も、前記のとおり、原告における設計業務の遂行のため、NPF-400の設計図のコピーを一〇枚程度自宅に持ち帰っており、そのまま原告に返却しなかったとの事実は認めていたものの、本訴における原告の主張事実(本件製作図を窃取してこれを第三者に開示してパイプ鍔部成形機を製造したとの事実)を自白していたことを伺わせるような証拠はない。

(六) エスメックは、被告らが釈放された平成三年一一月ころ、長谷川鉄工所に、フラップジョイントの製作を依頼し、完成したフラップジョイントを、同四年二ないし三月に日設管興に二台、同年二月にジャパンエンジニアリングに二台、それぞれ販売した。(被告正司二七三ないし二七六、弁論の全趣旨)

エスメックは、現在も右フラップジョイントを製造販売しているが、フラップジョイントと原告のフレアマシンとの構造上の差異は、次のとおりであり、両者は、設計図上も種々の点で相違している。(甲五四の1ないし6、乙二四の1ないし3、検甲一、検乙一)

(1) フラップジョイントは、フレアマシンと比べ、第一工程用のコーンと第二工程用のコーンとをフレームの前後に別々に設置した点、及び、第一工程を実施した後に、このフレーム自体を半回転させて第二工程用のコーンにより第二工程を実施するという反転構造を有する点で異なるものである(コーンを半回転させる機構を備えている点が試作機をさらに改良した点でもある。)。(乙一三)

(2) フラップジョイントは、コーンの回転容量を試作機よりもさらに増量させている。そのため、設計図上もコーンの回転容量、油圧等に関係する部品の構造、大きさ等が異なってくるものであり、また、パイプの加工精度も従来のものと比べ改良されているため、パイプの接合に使用するフランジについても、原告のフレアマシンで成形したパイプの鍔部については特殊なフランジを使用する必要があったが、フラップジョイントで成形したパイプの鍔部については、コストの安いJISの汎用型フランジを使用することが可能になっている。(乙一六、二二、被告正司二八ないし三五項)

(七) 被告らは、平成四年二月二八日不起訴処分となったが(甲一四)、エスメックは、不起訴処分となる前に、原告の求めに応じて、同年二月にフラップジョイントの試作機を原告に引き渡し、右試作機は、現在、原告の工場の隅に保管されており、また、パイプ端部のフランジ形成装置に関する被告特許出願を取り下げている(甲四一、四二、乙二〇、原告代表者八九項、被告正司三八ないし四三項)。なお、高田機械設計は、平成三年一一月二六日、原告から預かっていたパイプ鍔部成形機に関する図面七三葉を原告に返還しているが(甲三三)、右設計図は、原告のフレアマシンに関する設計図であり、原告が高田機械設計と契約をして外注設計を依頼した際に、当時の原告の担当者であった被告門倉が高田機械設計に預けていた図面である(原告代表者二一〇ないし二一六項)。

(八) 原告は、エスメックが製造したフラップジョイントを使用してパイプ鍔部を成形する方法が原告の本件特許権を侵害するとして、エスメックらを債務者として、右パイプ鍔部成形方法の使用の差止等を求める仮処分を東京地方裁判所に申請したが(同裁判所平成四年(ヨ)第二五六七号特許権仮処分申立事件)、同裁判所は、同五年五月一四日、エスメックらの右パイプ鍔部成形方法は、本件特許権を侵害するものではないとして、原告の仮処分申請を却下する旨の決定をし、原告は、これを不服として同決定に対し、抗告したが、東京高等裁判所は、同五年九月二四日、右抗告を棄却しており、フラップジョイントを使用したパイプ鍔部成形方法が原告の本件特許発明の技術的範囲に属しないことを認定している。(乙一二、一七)

2  右1認定の事実によれば、次のとおり認めるのが相当である。

(一) エスメックのフラップジョイントの試作機及びフラップジョイントは、原告のフレアマシンであるNPF-400、NPF-250及びGSF-400Nと比べて、コーンの回転数、油圧等の容量がかなり大きく、また、構造的にも、フレアマシンのようにコーンの軸を一軸とし補助ヘッドを使用して機械の簡易、小型化を目的としたものに対し、コーンの軸を二軸として第一工程用のコーンと第二工程用のコーンとを別軸とするか(試作機)、あるいは、第一工程終了後コーン軸が半回転し第二工程用のコーンに第二工程を実施させる(フラップジョイント)との構造上の差異を有するものである。したがって、被告のフラップジョイント及び試作機は、パイプ鍔部成形機における最も重要な部分であるコーンの構造、回転容量等の面で原告のフレアマシンとは顕著な差異を有するものであって、機械の製作図面上も顕著な差異を有することはこの点から容易に推認されるから、被告らがNPF-400、NPF-250あるいはGSF-400Nに関する本件製作図を利用する必要性は少なかったものである。

(二) 被告門倉は、ゲーエス社のGSタイプのフレアマシンをJIS規格のパイプの厚さに合せるためのNPF-400、NPF-250等の設計業務を担当してきたものであり、被告門倉が原告において培ってきた経験と知識を利用すれば、フレアマシンの設計図が手元になくとも、原告を退職した後約二か月位の期間があればフラップジョイントの試作機の設計図を製図することは十分に可能であり、その後フラップジョイントの設計図の作成まではさらに数か月の期間的余裕があったのであるから、試作機を製作後に試作機の図面を元にフラップジョイントの設計図を作図することはより容易である。

(三) 被告らは、本件製作図を窃取したとの容疑事実で逮捕勾留されたが、その際に押収された図面の中に本件製作図は全く存在していなかったものであり、被告らが右容疑事実を自白していたことを認めるに足りる証拠もないことは前記のとおりであって、被告らが本件製作図を窃取したとの事実を認めるに足りる直接的な証拠は存在しない。

(四) 原告が平成三年八月一日に被告らを告訴した当時、原告社内を調査したことは前記のとおりであり、これに関連して、破魔知孝作成の平成三年七月一二日及び同月一八日付け原告代表者宛報告書が証拠として提出されており(甲五三の1・2)、同報告書には、別紙目録記載の本件製作図が不足しており、これらは何者かに持ち去られた可能性がある旨の記載があるが、原告の図面の管理状況は前記のとおりあまり厳格なものではなく、図面の持出し等を十分にチェックする体制にはなかったものであり、もともと紛失したとされる図面が原告会社内にすべて存在していたのかどうかも明確ではなく、また、紛失した図面があるとしても、社員等が機械の修理等のために持出したときに紛失した可能性もあり、結局、誰のどのような行為によりどの図面が紛失したのか、その管理状況に鑑みれば、その真相は不明であるといわざるを得ない。さらにまた、被告門倉は前記のとおり図面のコピーを自宅に持ち帰ることができる立場にいたのであるから、仮に原告の営業秘密である図面を持出す必要があっとすれば、図面をコピーして持出せばよいのであって、原告社内で管理していた原図や青図等を窃取する必要性も乏しいものと思われる。

(五) 以上によれば、被告らが本件製作図を窃取してこれを第三者に開示したり、あるいは、被告らが窃取した図面を使用して試作機あるいはフラップジョイントの設計図を作図し、第三者をしてこれを製作させたとの事実を認めることはできない。

なお、原告は、コーンの回転数や油圧は、パイプの鍔部を同パイプの長手方向の軸線に垂直に形成するために必要な技術上のノウハウである旨主張するが、このようなノウハウは、本件製作図を含めたフレアマシンの設計図上に記載されているものであるとの証拠もなく、計算書その他の書面に別途記載されているものであり、また、試作機及びフラップジョイントは、コーンの回転数や油圧がそもそも原告のフレアマシンとは異なるものであるから、被告らが原告の主張する右ノウハウを使用したと認めることはできず、原告の右主張は、前記の判断に何等の影響を与えるものではない。

3  よって、原告の被告らに対する不正競争防止法二条一項四号、四条、民法七〇九条、七一九条に基づく損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。

二  被告正司に対する請求について

被告正司が、原告の取引先担当者を欺岡して、本来原告が受領すべき工事請負代金を、これを受領する権限のない斉成工業に支払わせたか否かについて判断する。

1  前記第二、一認定の事実、並びに、証拠(甲三五、原告代表者)及び後記括弧内の各証拠によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告は、平成二年春ころ、原告のフレアパイプを原告の下請として取付ける業者が不足していたため、当時日立冷熱の下請業者であった大谷工業を原告の下請業者にすることにした。しかし、原告は、日立冷熱と取引があり、大谷工業も日立冷熱の系列を抜けて直接原告から仕事を受注するわけ.にはいかなかったため、原告と大谷工業との間に別会社を入れて取引をする必要があった。そのため、原告は、原告と大谷工業との間に入るべき会社を探していたところ、被告正司が原告代表者に「斉成工業は、浜松の有力な配管業者であり、常時三〇数名の作業員を配下においている。大谷工業の作業員が足りない場合に援助できる能力がある。」旨説明し、斉成工業を推薦したため、原告代表者は、被告正司の言葉を信用して斉成工業を原告の下請として原告と大谷工業との取引の間に入れることにした。その後、原告を注文者、斉成工業を請負業者、大谷工業を下請業者として、原告が斉成工業に工事代金を支払い、斉成工業が大谷工業に工事代金を支払うとの形式での取引がなされ、斉成工業から原告に対する請求書が、平成二年一一月一日、同一二月一日、同三年一月四日に、各三通送付されている。((一)項全体につき、甲三四、被告正司五八ないし七二項)

(二) 原告は、日鐡商事から新高輪プリンスホテルの空調配管工事を請負っていたところ、その追加工事代金の支払については、被告正司の申入れにより、日鐡商事と原告との間に東阪通商を入れて、日鐡商事が東阪通商に対して支払うように変更されていた。しかし、被告正司は、平成二年一二月二七日ころと同三年一月八日ころ、日鐡商事の機材プラント第二部課長大橋に対し、「斉成工業が日鐵商事と取引をすれば対外的な信用もつくので、右追加工事代金の一月末の支払分の支払先を東阪通商から斉成工業に変更してもらいたい」旨を申し入れ、大橋が斉成工業の実態について尋ねたところ、斉成工業についての資料メモ(以下「斉成工業メモ」という。)をファックスで送付してきた。斉成工業メモによれば、斉成工業は、「住所は薪宿区西新宿七-一〇-一八坂本ビル三〇一、代表者は濱田泰次、資本金は一〇〇万円、メインバンクは住友銀行銀座支店、売上は平成二年度約一億円」ということであった。そして、大橋は、被告正司が、平成二年当時、原告代表者の長男でかつ原告の営業課長として、日鐡商事及び東阪通商との取引においても工事の受注から支払金額及び支払先の指定までの業務を中心となって担当していたため、被告正司を信頼して、前記ファックスを受領後、前記追加工事請負契約の相手方を斉成工業に変更する旨の被告正司の申入れを了承し、注文書と注文請書を被告正司の前記メモにあった斉成工業の住所へ送付した。なお、原告と日鐡商事は、工事が終了するまで代金総額が決まらないため、従前から契約書を作成しておらず、工事終了後に代金額を記載した注文書と注文請書を取り交わし、これに基づき手形ないしは銀行振込で代金の決済をしてきたものである。また、大橋は、斉成工業名義の注文請書と請求書各一通(請求金額五三〇万円及び消費税)が送付されてきたところ、右注文請書に収入印紙が貼付されていなかったため、これを斉成工業に連絡して返送し、さらに、同三年一月二二日ころ、被告正司の部下被告渡部に、右工事についての高砂熱学から日鐡商事への支払額が当初の見積より多かったので、その分について日鐡商事として仕入先名と仕入金額をどうしたらよいかメモを渡して尋ねると、同日中に、被告渡部から被告正司と相談のうえのことであるとして、「仕入金額は六五〇万円、仕入先名・支払先は斉成工業、支払時期は一月三一日でお願いします」との連絡があり、その後、被告渡部が収入印紙が貼付された注文請書(契約金額五四五万九〇〇〇円及び六六九万五〇〇〇円)及び請求書各二通(請求金額五三〇万円及び同六五〇万円並びに各消費税で各前記契約金額と同額)を日鐡商事に持参した。そのため、日鐡商事は、同年一月三一日、右請求金額及び消費税合計一二一五万四〇〇〇円を、右請求書の記載に従って、斉成工業名義の銀行口座に振り込む方法で支払った。((二)項全体につき、甲二四、二五、二六及び二七の各1・2、二八、二九、三六)

(三) 原告は、東阪通商から全信連ビル工事並びに全信連ビル追加工事及びホテルニューオータニ工事を請負っていたところ、被告正司は、平成二年一二月六日、東阪通商の専務取締役柏谷に対し、東阪通商と原告との間に斉成工業を入れること、及び、斉成工業から原告に対しては責任をもって支払をさせる旨を説明して、工事代金を斉成工業に支払うように指示した。柏谷は、被告正司が、平成二年当時、原告代表者の長男でかつ原告の営業課長として、日鐡商事及び東阪通商との取引においても工事の受注から支払金額及び支払先の指定までの業務を中心となって担当していたため、被告正司を信頼して、平成二年一一月三〇日付けの全信連ビル工事についての工事代金七七万円の注文書を斉成工業に送付し、斉成工業は、同日付の請求書(消費税込みで七九万三一〇〇円)を東阪通商に送付した。そして、東阪通商は、平成三年一月一一日、斉成工業に対し、全信連ビル工事代金七七万円(消費税込みで七九万三一〇〇円)を、斉成工業名義の銀行口座に振り込む方法で支払った。

また、東阪通商は、全信連ビル追加工事及びホテルニューオータニ工事代金についても、被告正司から同様に指示されて、平成二年一一月三〇日付の全信連ビル追加工事について三一一一万八三一四円、ホテルニューオータニについて一一二七万一一五〇円の注文書二通(合計四二三八万九四六四円)を送付し、斉成工業は、同日付の請求書(消費税込みで、全信連ビル追加工事について三二〇五万一八六三円、ホテルニューオータニ工事について一一六〇万九二八五円、合計四三六六万一一四八円)を東阪通商に送付した。そして、東阪通商は、右工事代金合計四三六六万一一四八円については、平成三年一二月一七日に約束手形数通により三三五五万一二三〇円を、同月二一日に銀行振込により振込費用を差引いた後の金額である一〇一〇万九一九七円を斉成工業に対し支払った(なお、右約束手形はすべて決済されており、右振込費用差引前の合計金額は、四三六六万一一四八円となる。)。((三)項全体につき、甲一五ないし一七、 一八及び一九の各1・2、二〇、二三、二九、四四の1・2、四五、乙九、一〇の1・2)

(四) 斉成工業は、平成二年二月一九日、本店を東京都中央区勝どき二丁目九番一六号、代表取締役を斉藤薫、取締役を城所美江として設立された有限会社であり、その後代表取締役が濱田泰次に変わり、しばらくして斉藤薫は取締役を辞任しているものであるが、右濱田、斉藤、城所らは、いずれも被告正司の知り合いで、配管工事に関する経歴もなく(斉藤及び城所は、被告正司が鐘紡化粧品中央販売に勤務していたときの同僚である。)、斉成工業のためには何の仕事もしていない名目だけの役員であり、また、斉成工業の右本店所在地も斉藤薫が居住する住所であり、従業員もおらず、さらに、斉成工業メモにあった斉成工業の住所(新宿区西新宿七-一〇-一八坂本ビル三〇一)は、事務代行会社の事務所の住所であった。このように、斉成工業は、実体のない会社であり、日鐡商事及び東阪通商から斉成工業宛に支払われた前記(二)及び(三)の工事代金は、現在も被告正司によって管理されているのであり、被告正司が実質上これを管理している会社である。((四)項全体につき、甲三〇の1ないし3、三一の1・2、乙一一、被告正司一二四ないし一二六項、一八二ないし二四七項)

(五) 被告正司は、日鐡商事及び東阪通商に前記(二)及び(三)のとおり指示して、原告が本来受領すべき工事代金を斉成工業に対し支払わせ、かつ、実質上右工事代金及び斉成工業を管理する立場にありながら、斉成工業から原告へ右工事代金の支払をするための手続を取っていない。そして、被告正司は、前記(二)及び(三)のとおり工事代金が斉成工業に支払われた平成二年一二月中旬から末にかけて原告を退社する決意を固めており、同三年一月一七日には原告を退職している。

東阪通商の柏原及び日鐡商事の大橋らは、その後、原告代表者から全信連ビルの工事代金、同追加工事代金、ホテルニューオータニの工事代金、あるいは、新高輪プリンスホテルの工事代金の支払がないとの話を聞き、それぞれ右(二)ないし(三)の経緯を説明したところ、被告正司が右請負契約の当事者及び代金の支払先を斉成工業に変更したことについて原告が何も了解していないことが判明した。そのため、東阪通商は、平成三年五月三〇日、被告正司及び斉成工業に対し、全信連追加工事代金及びホテルニューオータニの工事代金として斉成工業に支払った合計四三六六万一一四八円を返還するように内容証明郵便で要求した。(以上につき、甲三六)

なお、乙五の1は、斉成工業を注文者、原告を請負人とする取引基本契約書であるので、その成立の真正について判断する。

乙五の1にある原告の社判及び原告代表者印の印影は、真正な原告の社判及び原告代表者印により顕出されたものであり(原告代表者一二九項)、被告正司は、原告代表者が乙五の1の取引基本契約書に自ら右社判及び原告代表者印を押印した旨を供述している(被告正司七三ないし八〇項)。しかし、乙五の1の契約書の作成年月日欄は空欄であり、原告代表者は、その尋問において、これらの書類に押印したことはないこと、及び、作成年月日欄が空欄の契約書を作成することはありえない旨供述する(原告代表者一二四ないし一四一項)。また、原告の作成書類に関する手控えである乙五の2の「東阪通商、斉成工業(有)基本取引契約書及斉成工業注文請書、誓約書」と記載のある欄においても、右基本取引契約書を作成したことを示す手控えとして真正な原告代表者印により顕出された印影がある(原告代表者一三二、一三六項)が、日付けは、一二月と記載されているだけで、日の記載がなく、また、「斉成工業注文請書、誓約書」については、その存否が不明である。

ところで、乙五の2は、本来原告の社内に備付けておく書類であるが、被告正司は、そのコピーを所持しており、その所持の理由を「後々になって問題が起きたらいけないということでコピーを取った」と供述しているものであり(被告正司一五八、一五九、二八七項)、被告正司が他に特段の事情がないにもかかわらず、退職前から乙五の2について将来問題が起きることを予想してそのコピーを取っていたということは不自然である。また、乙五の1・2については前記のとおり日付け等の不備があり、さらに、乙五の1のような取引基本契約書は、従来から原告と東阪通商との間あるいは原告と日鐡商事との間にも存在しなかったし、また、斉成工業と東阪通商あるいは日鐡商事との間にも存在していないものであるのに(被告正司)、原告と斉成工業との間でのみ作成されるのも不自然である。またさらに、前記(一)認定のとおり、斉成工業は、原告の下請として注文者である原告と工事請負業者である大谷工業との間の契約関係に入るものとして原告の了承を得ていたものであって、乙五の1の取引基本契約書のように、斉成工業を注文者、原告を工事請負業者とする取引基本契約書は、その内容が従前合意されていた契約関係と相反するものであって、かつ、原告が斉成工業を東阪通商や日鐡商事との間の契約関係に入れるべき特段の合理的理由を認めるに足りる証拠もなく、現に、斉成工業は現在でも乙五の1の契約書が有効であるとすれば、これに従って原告に支払うべき前記工事代金を原告に対し支払っていないのである。以上の事実からすれば、原告と斉成工業との間で乙五の1のような内容の取引基本契約が締結されるような客観的な状況にあったものと認めることは到底できず、乙五の1・2については、原告代表者印により顕出された印影があるからといって、これが原告代表者の意思によって押捺されたものと認めることはできない。

なお、斉成工業名義の「請求手続に関する事項」と題する平成三年二月六日付ファックスが原告に対し送付されており(乙一九の1・2、被告正司一四五ないし一四九項)、右ファックスによれば、斉成工業が原告に対し、前記(二)及び(三)の工事代金を斉成工業宛に請求する手続を取るように催告していることになるのであるが、右書面は、乙五の1の取引基本契約書が有効であることを前提とした催告書であるから、原告がこのような催告書を無視するのも当然であろうし、もともと存在しない契約に基づく斉成工業名義の催告書が原告に送付されたとしても、単に斉成工業ないしは被告正司にとって取引書類の形式を整える程度の意味があるにすぎない。そして、被告正司が斉成工業名義で右催告書を出したとしても、被告正司が、前記(二)及び(三)の工事代金を自ら管理し、依然としてこれを原告に対し支払っていないものであることに変わりはない。

(六) 被告正司は、前記のとおり、日鐡商事及び東阪通商と原告間の請負契約の一部を、原告代表者の承諾を得ることなく、日鐡商事及び東阪通商と斉成工業との間の請負契約に変更したのであるが、この変更契約は、原告との関係では、日鐡商事及び東阪通商と原告との間の請負契約の一部を解消する契約になるものである。そして、被告正司は、前記のとおり、原告代表者の長男でかつ原告の営業課長として、日鐡商事及び東阪通商との取引においても工事の受注から支払金額及び支払先の指定までの業務を中心となって担当していたのであるから、被告正司には右のような変更契約をする権限までなかったとしても、対外的には表見代理の法理等によりこれが有効とされる可能性が強く、また、仮に表見代理の法理が何らかの事情により認められない場合でも、少なくとも日鐡商事及び東阪通商から斉成工業への代金支払が、債権の準占有者に対する弁済として有効とされる可能性も高いのである。また、被告正司が原告の営業課長であることを考えると、原告が日鐡商事ないしは東阪通商に対し、前記(二)及び(三)の工事代金の支払を請求しても、原告について使用者責任の問題が生じるのであり、いずれにしても、原告が日鐡商事や東阪通商に対し、前記(二)及び(三)の工事代金の支払を請求しても、原告が右代金を回収することが法的に見て困難な状況にあるといわざるを得ない。

2  右1に認定したところによれば、被告正司は、原告の営業課長として、原告代表者の承諾がないのに日鐡商事及び東阪通商の担当者を欺罔して、自己が管理している会社である斉成工業に前記1(二)及び(三)の工事代金を支払わせ、原告に同額の損害を与えたものであることが認められる。よって、被告正司は、東阪通商及び日鐡商事をして斉成工業に支払わせた前記1(二)及び(三)の工事代金について、原告に賠償すべき責任がある。

以上によれば、被告正司が原告に対し賠償すべき損害は、原告が支払を受けるべきであったのに斉成工業が支払を受けた前記1(二)及び(三)の一二一五万四〇〇〇円、七七万円、及び、四三六六万一一四八円の内金四三三六万六六八四円の合計五六二九万〇六八四円である。また、被告正司の右不法行為と相当因果関係が認められる弁護士費用は、本件に現われた諸事情を斜酌すれば、三一〇万円が相当であると認められる。よって、原告の被告正司に対する請求はすべて理由がある。

(裁判長裁判官 設楽隆一 裁判官 橋本英史 裁判官 長谷川恭弘)

(別紙目録)

※原図 原紙に書かれた設計図又は一部訂正のため第2原図にコピーして訂正したものを言う

※青図 原図を破損しないため原図からコピーしたものを言う

※図番のないものは全体設計図であり、図番のあるものは部品図である

【NPF-400の製作図】

図番のない図面のうち、窃取したものの名称 図面の種類 図番のある図面のうち、窃取したものの名称 図面の種類

HYDRAULIK CIRCUIT NPF-400 青図 図番 名称

フレアーマシン電気面回路図 青図 13 前部ビストンロッドシール兼主軸室ダストシール金物 原図

NPF-400操作盤 青図 17 90゜フレアコーン円筒詳細 原図

制御盤 青図 18 同上 軸部詳細 原図

YUKI HYO.CO油圧ポンプ制御弁 青図 19 37゜フレアコーン円筒詳細 原図

全体姿図 原図

組立断面図 青図・原図

操作盤廻り 原図

リミットスイッチ関係組立図 原図

減速機・電動機廻り減速機 原図

ストッパーその他廻り組立図 原図

減速機側側面図 青図・原図

【NPF 250の製作図】

図番 窃取した図面の名称 種類

7 原図(クランフ゜)

16 青図(主軸)

A01 全体組立図 青図・原図

02 組立断面図 青図

03 クランプ側面図 原図

操作盤制御盤 青図

ウオーム減速機 青図

ポンプユニット 青図

【LIST OF TOOL DRAWING TO ABOVE】

図番 種類 内容

4876 青図 90゜cone

4875 青図 37゜cone

【GS HYDROのLIST外の図面】

図面 種類 内容

1-07688-6 青図 Rotary plate

【GSF 400Nの製作図】

図番 種類 内容

0 076881 1 青図 ASSY DRAWING(組立図)

4 07688 7 青図 wedge

4-07688-8 青図 guard plate

1-07688-9 青図 guard plate

2-07688-10 青図 sliding bearing

2-07688-11 青図 distance ring

2-07688-12 青図 abutment ring

1-07688-13 青図 piston&rod

3-07688-14 青図 cylinder

2-07688-15 青図 sliding bearing

2-07688-16 青図 back collor

2-07688-17 青図 shaft(回転止め)

2-07688-18 青図 firing flange

2-07688-19 青図 shaft(主軸)

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